日本マクドナルドの限界


マクドナルド・原田社長、神話の終焉か 7期ぶり営業減益で問われる真価 東洋経済 2013年02月12日

「結論を言う。2004年から11年まで(既存店売上高は)8期連続プラスの業績だった。12年12月期は9期ぶりに減収減益で終わった。今年は増益を目指すということだ」――日本マクドナルドホールディングス原田泳幸会長兼社長は、2月8日に開かれた12年12月期本決算説明会の場でそう宣言した。


値引き戦略行き詰まり、7期ぶり営業減益


さぞ悔しい決算だったのだろう。会社が同日開示した前12年12月期決算は売上高2947億円(前期比2.5%減)、営業利益247億円(同12%減)と昨年12月に発売した「会社四季報」新春号の着地予想(売上高2950億円、営業利益245億円)とほぼ同額だった。

営業減益決算となるのは05年12月期以来7年ぶりだ。既存店売上高も前期比96.7%と、原田氏が04年にトップに就任して以来、初の減収に転じた。出退店に関しては出店101、退店119(前期は各101、105)、12月末店舗数3280と、相変わらず店舗数の減少が続いている。

営業減益の最大の要因は、値引き戦略の行き詰まりと高価格商品の不振だ。マクドナルドはこれまで100円コーヒーや100円ハンバーガー、値引きクーポンで客を集め、リピーターには600円台のセットメニューなど高価格商品を売り込む戦略で売上高を伸ばしてきた。

原田氏が社長に就任した04年以降、同社は05年「えびフィレオ」、07年「メガマック」、08年「クォーターパウンダー」といった高価格商品を投入し、既存店売上高はプラスを維持してきた。

だが、10〜11年の「ビッグアメリカ」ハンバーガー投入後から、高価格商品は勢いを失い始める。

とりわけ12年夏の、世界のご当地バーガーを複数販売した「世界の★★★マック」キャンペーンは売れ行き不振から、開始わずか2週間あまりでセット価格を100円近く値下げせざるを得なかった。不需要期である夏季に大型商品を投入するというマーケティングの失敗に加え、東日本大震災後の消費不況や低価格志向の強まりを見誤った。


客数は伸びても客単価は下落


新規客を呼び込むための低価格商品については、100円メニューの拡充に加え、集客増を狙った値引きキャンペーンを多用した。たとえば、ビッグマック(300円前後)を200円にする割り引きキャンペーンは、07〜09年に1回実施しただけだが、10〜12年では5回行っている。

だが、集客効果はあっても、その後も単品購入にとどまり、高価格商品の拡販には結びつかなかった。10年以降、客数は伸び続けるが、客単価の下落が続くのはそうした理由からだ。

マーケティングに詳しい金森努・青山学院大学非常勤講師は「そもそも日本の総人口が減り、外食市場の縮小傾向が続く中、客数増を前提に低価格で集客を図るマクドナルドの戦略は奇策だ」と指摘する。

マクドナルドの本来の顧客は500〜600円のセットメニューを求めてやってくる。ところが客数と利益を稼ぐために100円商品や無料配布を拡充し、700円台のセットメニューを投入してきた。結果、700円の高価格メニューは伸び悩み、「100円マックは本来の顧客ではない人、商品が欲しくない人にまで売り込んでいる」と金森氏は指摘する。

マクドナルドの直営店とフランチャイズ(FC)店を合わせた全店売上高は04年から08年にかけては1000億円拡大したが、09年以降は横ばい基調で伸び悩みが続いている。原田社長は「10年の戦略閉店で、目先の500億円という売り上げを捨てたことが大きい」とするが、それだけで伸び悩みを説明できるのか。


直営店のFC転換で利益増支えたが…


売り上げが伸び悩む中で、増益を続けてこられたのは、直営店のFC転換があったからだ。

同社は直営店を各地域のFCオーナーに譲渡し、FC店に転換することで、好採算のFC収入(ロイヤルティ収入、広告収入、賃貸収入などから構成)を拡大してきた。FC転換を本格化した08年からの5年間で累計1000店以上を譲渡している。

また、FC転換は、店舗人員のFC店への転籍・出向を通じ、同社の人件費負担を軽減する効果ももたらした。マクドナルドの従業員は07年末の4997人から、11年末には3128人と大幅に人員を圧縮した。

だが、FC転換戦略にも限界は見えている。全店に占めるFC店の比率は07年の28%から12年末には66%にまで上昇。従来70%としていたFC 化比率を昨年11月に急遽80%まで引き上げる方針を打ち出したが、 今後は従来のような転換ペースは望めない。おのずとFC転換による利益成長は鈍化し、転換自体もいずれはストップする。


1月の既存店売上高も2ケタ減と出足低調


マクドナルドは今13年12月期を売上高2695億円(前期比8.6%減)、営業利益252億円(同1.7%増)とFC化や閉店の推進により減収ながらも増益を目指すと打ち出した。前提となる既存店売上高は99%〜101%、出退店に関しては前期に決めた100店超の戦略閉店により大幅な店舗純減を見込む。

しかし既存店浮揚策の切り札として1月に実施した、商品を60秒以内に提供できればコーヒー無料券、できなかったらビッグマックなどの無料券を配る「ENJOY!60秒サービス」キャンペーンにもかかわらず、1月の既存店売上高は83%と空振り。その後実施するマーケティングキャンペーンも、過去のヒット商品をそろえた「ビッグアメリカオールスターズ」や、相変わらず無料配布に頼った「フリーマンデー」など精彩を欠く。

決算説明会の場で原田社長は、「13年1〜3月期の既存店はマイナス。3月から回復していって、13年4〜6月期以降は季節限定メニューや売れ筋メニューを投入することで既存店はプラスに転じる。確実に数字をとれるものだけを積み上げる」と根拠を説明する。

確かに夏場の数字は低かったし、前半は猛烈なディスカウントプロモーションで集客を図った。その影響がなくなるだけで、既存店売上高が増収に転じる保証はない。この見通しに対し、あるアナリストは「希望的観測だ」と評価し、業界誌の記者も「昨年夏は反動減で失敗したばかり。既存店浮揚策としては根拠が薄い」とさんざんな評価だ。

また、仮に今13年12月期を従来型の無料クーポン券の配布やFC転換の推進で乗り切ったとしても、14年、15年には連続消費増税という厚い壁が待ち構える。再び高成長路線に復帰できるかどうか。今後、数年で原田社長の真価が本当に問われることになる。


日本マクドナルドは短期戦しか考えていない気がしたが、案の定、頭打ちに陥っている。
一時期、好調な日本マクドナルドを持て囃す風潮があったが、リストラとフランチャイズ化による人件費削減と店舗売却の収入、そして安売り路線による集客で、業績拡大を装うのは簡単とも思えた。
世界市場を相手にする場合は、効果があったのかもしれないが、狭い日本国内市場だけに絞った場合は、限界がある。残念ながら、海外には既に別資本のマクドナルドが存在する。どう考えても、無謀な戦略だったとしか思えない。


日本マクドナルドと同様に、ドイツでは不景気の影響でマクドナルドが値下げ商戦を展開している。100円マックともいえる1ユーロメニューはリーマン・ショック後に出てきたが、今も多少の値上がりや商品を変えながら続いており、今月からはBBQソースを使ったウエスタン・ビーフバーガーとウエスタン・チキンバーガーが1ユーロで売られている。
安いセットメニューも出てきて、マック・ディール・メニューは3.79ユーロでポテトとドリンクの中サイズ、及びチキンバーガー2つかロング・チキンバーガーが選べる。マクドナルドに先駆けてバーガーキングが割安セットを出しており、3.99ユーロとマクドナルドより少し高いが、月ごとにハンバーガーが変わり、サラダかポテトかのどちらかを選べ、更に、ポテトとドリンクは大となっている。


日本マクドナルドとドイツのマクドナルドは同様な路線ながら、ファストフード産業が置かれている立場は、日本とドイツとでは異なる。
まずは、外食産業が日本ほど盛んではない。ファミリーレストランといえるものが皆無に近く、ファストフード店ファミリーレストランの代わりとなっている。故に、子供連れは普通のレストランを嫌煙し、ファストフード店に雪崩れ込む。
持ち帰りで直ぐに食べられる外食は、ハンバーガー屋以外では、ドナー(トルコケバブ)か中華インビス(軽食屋)か通常のインビスのポテトや鳥の丸焼きくらいしかない。
中華やドナーが嫌いな保守的なドイツ人でも、ハンバーガーなら普通に食べられる。通常のインビスでは物足りなく感じる人も、色々な種類があるハンバーガー店なら飽きない。しかも、今月に入りマクドナルドはドイツ人が好きなカリーヴルストを売りだしており、盛況だ。
ドイツは惣菜や弁当等の中食も盛んではなく、他欧州各国と比べても少ない。ドイツ人であれば、ソーセージやハンバークを買って調理せずに食べることもあるが、中規模程度のスーパーでは直ぐに食べられるものを探すのは難しい。
ピザは大きすぎるので、持ち帰るよりもデリバリーサービスとなり、ライバルから除外される。
結果として、ハンバーガー屋がドイツでは一番、客数が多くなるが、ハンバーガー屋は価格競争力も必要とするため、大手しか生き残れずライバルが少ない。ドイツでは実質、マクドナルドとバーガーキングの二社で市場を独占している。
ラストホフと言われるアウトバーンの休憩所にあるハンバーガー屋にはいつも長蛇の列ができ、注文まで30分待ちも普通にある。ハンバーガー屋があれば、レストランは必ず併設されているが、ハンバーガーセットの二倍程度の料金設定であり、客足は少なく、年配者が多い。
日本マクドナルドは60秒サービスを始めたようだが、ハンバーガーに30分の待ち時間でさえ耐え忍ぶドイツ人には、想像もできないサービスといえる。


以上のように、日本よりも明らかに競合が少なく有利な状況にあるドイツのハンバーガー屋でも値下げを余儀なくされるほど、ドイツ人の財布の紐は固くなっており、外食産業も冬の時代を迎えている。


日本マクドナルドは、日本独特のファストフード業界を理解していない。
台所のない家が多いタイは別としても、日本は外食産業や中食産業が世界で屈指の盛んな場所でもある。
マクドナルドよりも安くて美味しいレストランや弁当は五万とある。そんな日本で、不味くて高いハンバーガーを食べようと思う人は少ない。
だからといって100円マックで安売り路線に走っても、セットが高くては何の意味もない。中途半端な安売り路線では到底、太刀打ち出来ないのが日本の外食産業界でもある。


マクドナルドのセットが600円〜800円に収まるとして、日本なら定食屋にしても、弁当にしても、その半値で安くて美味しい料理を提供してくれる店も多い。しかも飲料水も無料でチップも必要がない。
対照的に、ドイツでは、例え安いランチメニューだとしても、レストランでドリンク代を払えば、最低でも8EUR(約1000円)以上になり、チップは別となる。通常のレストランでは一人EUR20以上(約2500円)は普通だ。安いといわれる中華インビスやドナーでさえメニュー単品と飲み物を頼めば6EUR以上になり、6EUR程度のセットが多いマクドナルドのほうが割安感がある。


ドイツと同じように価格競争力を保つために日本マクドナルドがいくら効率化したとしても、全てのセットを500円以下にするのは不可能に思える。故に、最初から安売り路線はするべきではなかったとの結論になる。
海外は別としても、本来の日本のマクドナルドの客は、安くて不味いハンバーガーを食べたいとは思わない。雰囲気を楽しんでいただろう。そんな人々が、安い100円マックだけを求める客が群がっている店内を、どう思うのだろうか。


極端な業績拡大は望めなくても、モスバーガーのように堅実に成長できる路線で行くべきだったのは明確だ。即ち、高級・安全・こだわりだが、昨今の健康志向を鑑みて、サラダを充実させて女性客を増やす手もあっただろう。
しかし、一度付いたイメージはなかなか消えない。
今後も日本マクドナルドの苦悩は続くように思える。