海外進出する日本家電企業に必要なもの


グローバル化は日本のタテ型産業モデルの大きな課題―中国メディア Record China 7月22日 MSN

16日、海外での業務拡大をはかっても、ソニーパナソニックは大きな赤字を出し、アップルは大きなもうけを出している。その原因として、日本は伝統的にタテ型の分業モデルを取り、米国はヨコ型の分業モデルを取ることが挙げられる。写真は広東省の家電量販店。
2012年7月16日、人民網日本語版によると、同じように海外での業務拡大をはかっても、日本のソニーパナソニックは大きな赤字を出し、米国のアップルは大きなもうけを出している。日米の企業の利益情況にこれほど大きな差が出た原因として、日本は伝統的にタテ型の分業モデルを取り、米国はヨコ型の分業モデルを取ることが挙げられる。財政経済の専門家・李克(リー・カー)氏はこうした問題について分析した。中国広播網が伝えた。


日本では最近、国内経済が多くの問題を抱えている。これまで優勢を誇っていた一連の製造業に問題が出現し、高齢化によって貿易に困難が生じ、円高が一連の困難をもたらすなどで、こうした問題を前にして日本の人々は途方に暮れている。日本の国内総生産GDP)という点から考えると、目下の高齢化の進行や日本企業の海外進出の動きの強まりなどにともない、短期的には日本の国内市場や国内経済が大きな転換を迎えたり、大きく発展したりする可能性は低い。ここ3−4年の間に、各方面の生産コストの上昇や高齢化の深刻化により、ますます多くの企業が海外進出を検討するようになっている。


1990年代にも日本企業が海外進出に走る情況が出現して大きな論争となり、日本国内の産業が空洞化するのではないかということを人々は熱く語り合った。だが2000年以降に出現した新しい海外進出の流れは、90年代当時の状況とは異なる。90年代の主な狙いは、海外の労働力や生産要素といったコスト的優位を利用して製品を生産し、その多くを日本に送って売るということにあったが、00年以降の海外進出はこれとは異なり、国外の市場を海外市場開拓の第一歩ととらえ、現地生産、現地販売を主な発展の方向性としている。よって新たな海外進出の発展の流れの中にあって、日本企業の海外での生産あるいは経営ということが、日本の国内経済を支える非常に重要な柱になっている。


現在、海外にある日本法人・日本企業で出資比率が10%を超えるものは、収益の規模が1400億ドルに達しており、平均収益率が日本国内で経営を行う日本企業の2倍以上に上る。このためますます多くの日本企業が海外市場を重点ととらえるようになり、海外で収益を実現した後に国内の親会社へ、あるいは国内の企業へ一定の支援を提供するようになっている。これは過去10年間ほどの日本の発展における大きな特徴の一つだ。だがこうした過程で一連の変化も生じている。日本では今年に入ってから、自動車分野で、とりわけ電子産業分野で有名な企業やパナソニックソニーなどがいずれも巨額の赤字を出し、産業界、学術界、政府関係者に大きな衝撃を与えた。


現在、日本企業はさまざまなモデルに基づいて調整を進めており、発展変化の主な方向性として次の2つが挙げられる。一つは、日本企業の特徴としてよく知られるタテ型の分業モデルあるいはタテ型の産業調整モデルで、規模の大きい有名企業が牽引役となり、製品の集積企業となって、数百社、数千社の中小企業がこれに呼応し、サービスを提供して、高品質の製品を生み出すというもので、国際市場で一定のシェアを獲得してきた。タテ型の分業モデルは日本企業がこれまでずっと自信をもってきたモデルであり、完成度の非常に高いモデルでもある。トヨタソニーパナソニックなどはすべてこのモデルを採用してきた。だが十数年にわたる世界の変化により、特にグローバル化がもたらす世界の分業生産モデルの一連の変化(営業販売市場システムの変化を含む)が、タテ型の分業モデルあるいはタテ型の産業調整モデルにとってますます大きな課題となっている。


もう一つはアップルのような企業が採用するヨコ型の分業モデルで、アップルはこのモデルによって企業発展の非常に大きなチャンスをものにしてきた。ヨコ型の企業はある産業の産業チェーンをオープンにし、デザインや中核的部品といった難易度の高く営利性の高い部分だけをコントロールする。金融に関連する業務もコントロールの対象で、営利性が低く単純な生産・組立産業は発展途上国に任せることにした。こうしたモデルの発展は実際には非常に効果的なものであり、日本のタテ型の産業調整モデルにとっては大きな挑戦となった。日本では現在、こうした点を踏まえてどのように調整を行うかの検討がなされている。


李克氏は世界的に有名な経済学者で、日本大学大学院グローバルビジネス研究科EMBA課程の終身教授、日中管理学院の院長、経済誌「アジア太平洋経評論」の編集長、アジア開発銀行(ADB)の研究員を務める。長年にわたりアジア・太平洋地域の経済や企業の管理について研究を行い、中国経済と日本経済について独自の見解を発表している。(編集/TF)


日本の家電業界不振を中国の経済学者は縦型産業にあると見ているが、日本もアメリカも元請けと下請の関係で結ばれた縦型産業であり同一といえる。長年の信頼によって強く結ばれた日本と、価格が全ての入札だけで結ばれたアメリカとの違いしかないが、それが決定的な要因とは思えない。入札のアメリカ型では価格が全てとなり、高技術力を持った下請けが他社の下請けとなる危険性も孕んでいる。日本型はその逆となり、価格は下げにくくなるが、下請けの高技術が他社に流れるのを防げる。


問題なのは、縦型産業ではなく、縦型社会に思える。
天才よりも協調性のある人間を求め、出る杭を打つという日本の社会。統一された意思決定機関があれば、製品の質の向上は可能でも、iPhoneiPadなどの新しい発想は生まれにくい。


家電業界だけではなく、日本企業全体にいえるが、縦型産業は意思決定が大きく遅れる。現場では一瞬の判断ミスで商機を逃すことが多い。新しいニーズを現場の人間が見つけても、意思決定機関に伝わって、更に現場に反映されるまで時間のロスが生じ、その間に他国の企業に市場を席巻される。


未だに自企業の“ブランド力”に自信を持っている日本の家電業界の幹部も多い。まるでフランス製のバックのように高性能、高価格にばかり拘っている。絶対的な意思決定機関がこれでは、改善の余地がない。
途上国や一眼レフカメラは例外として、欧米人は基本的に家電にブランド力など求めていない。


「高齢化によって貿易に困難が生じ、円高が一連の困難をもたらす」とのことだが、高齢化との点でいえば、一人っ子政策をしている中国も同様に困難が生じることになる。円高にしても、悪い面ばかりではない。
日本は輸出大国ではなく、内需依存大国だ。それでも、昨今は国内市場も飽和状態となり日本企業は海外進出の時期を窺っていたが、2007年半ばまではドル高ユーロ高、円安で欧米への進出に二の足を踏んでいた。それがアメリカのサブプライムローンに起因する2007年の住宅バブル崩壊、2008年9月のリーマン・ブラザーズ倒産に始まる金融バブル崩壊によってドル安ユーロ安、円高となり、日本企業の海外進出が資金面でも楽になった。日本企業による欧米企業に対する旺盛な買収劇は、今も続いている。欧州には高技術を持った企業、人件費の安い東欧、そして巨大市場と全てが揃っている。
反日バブル崩壊の危険性を孕んでいる中国への一極集中した投資を拡散させる意味でも、円高は悪くはない。


日本では日本企業の海外進出は国内産業や雇用の縮小に繋がるとの意見も多いが、マクロで見てほしい。
優秀な海外企業を日本企業が多く買収すれば、結果として日本企業の収益も上がり、日本人の収入も増え、日本国内へ還元される。海外の市場が日本企業によって開拓されれば、国内にしかない技術力を持った工場の稼働率も上がる。買収先企業への日本人社員派遣の為に日本人の雇用も増える。


外市場で必要なのは、即効力と、安値と、適度な機能と、デザイン、そして宣伝費に思える。


◆安値
その中でも一番簡単なのは安値追求で、ここ二〜三年で日本企業もやっと欧米で安いモデルを出してきている。パナソニックがドイツで、8MBのSDカードを8EUR(約800円)で32MBを32EUR(3200円)と売りだしたのには驚いた。
値段を下げると、利益率が問題となる。利益率を上げるにはコスト削減が基本だが、まずは海外駐在員の手当削減か。細かい気配りのできる日本人が必要なら、現地採用の日本人比率を上げればいい。駐在員は志願制にし、出世コースの最短ルートとすれば、手当が少なくても士気が下がらなく、現地にすぐに順応できる社員を活用できる。
現地生産比率を上げるのも必要だが、日本人的感覚を現地工場が身につけるまで、かなりの年月を要する。国民気質のためか、日本人とは比べ物にならないくらいに適当で怠惰な人々が多い。
仮に現地工場が日本的になったとしても、工場がある国自体が日本的ではない。不安定な公共インフラ、賄賂を求めるばかりの怠惰な公務員も問題となる。
しかしながら、欧州で人件費の安い東欧は、他の途上国よりは、これらリスクが比較的に少ない。


◆適度な機能
難しいのは適度な機能だが、これには綿密な市場リサーチが必要となる。さすがに日本企業も気付き始めたようで簡素な機能しか持ち合わせない製品を出し始めたが、単純なら良いとの問題でもない。
例えば電子レンジ。日本の電子レンジは世界一、機能が充実しているが、ドイツではタイマーとワット数の調整しかできないダイヤル型が主流。対抗策として、デザイン性やワンランク上の機能が必要となる。例えば、ダイヤル式やボタン式ではなく、タッチパネル式にして、素材の絵が表示され素材別の解凍ができるように表示する機能を持たせるだけでも良い。
同じことは扇風機でもいえる。ドイツでのエアコンは珍しいとしても、扇風機は一般家庭にも普及している。日本企業で扇風機を出しているメーカーは見受けられず、それゆえか最近の日本で流行っている羽根の多いタイプはなく、首振りとダイヤル式タイマーか風量調整だけとの最低限の機能しか持っていない。もし、日本企業がドイツでリモコン付きや複数枚の羽根を持つ扇風機を安値で売りだしたとしたら、それだけでも差別化につながる。
欧米人は単純な家電を求めているからといって、欧米企業が売っているものと同じ製品を作り始めている日本企業も多いが、売れるわけがない。



ドイツ・パナソニックの電子レンジラインナップ


◆デザイン
先ほどの意志決定機関の話とつながるが、日本企業では、デザイナーが生み出した独創性のある魅力的なデザインが、保守的な上層部の意志決定機関によって凡庸なデザインになってしまう。
家電ではないが良い例として、日産の新マーチが挙げられる。世界に通じるためと当たり障りのないデザインになってしまったために、ドイツでは先代マーチに比べほとんど見かけない。


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最近のマツダも保守的なデザインになってきたが、1990年代のマツダ、ユーノス時代はドイツで爆発的に売れた。マツダ・ロードスター(ドイツ名MX5)が欧州で人気があることは日本でも知られている。マツダランティス・4ドアクーペ(ドイツ名323)も人気があり、10年以上前の車にもかかわらず、今でもドイツの街中で多く見かける。日本では個性的すぎるとのことで売れなかったマツダだが、海外では個性的な方が売れる。
過去のマツダと同じ路線を歩んでいる車メーカーが、今のヒュンダイ・キア自動車グループといえる。
家電では、サムスンのデザインは奇抜だが、同じようなデザインの中では差別化につながる。例えばテレビだが、サムスンはクロームメッキフレームをドイツで全面的に売り出している。常識で考えれば、目への負担からフレームは黒が基本だが、デザイン製を重視しているため、インテリアとしては見栄えが良くなる。



マツダ・ランティス・4ドアクーペ(カーセンサー)


◆宣伝費
サムスンは実に年間3000億円以上もの宣伝費を算出しているが、日本の家電企業は1000億円にも満たない。宣伝に力を入れている韓国企業は家電業界だけではない。最近ではサッカー欧州選手権でシャープがスポンサーとなったが、同様にスポンサーとなっているヒュンダイ・キア自動車グループは多くの世界大会でスポンサーとなっており、街中やテレビでの広告の露出度はトヨタの比ではない。結果としてなのか、2011年にドイツ国内で初めてヒュンダイの販売台数がトヨタを抜いた。確かに技術力や安全性ではトヨタの方が上だが、ドイツ人はそこまで気にしない。彼らは、知名度=信頼と思っている。
それがブランド力ともいえるが、日本人が考える家電のブランド力=“故障しなく高性能”とは次元が全く違う。


目下、最大の敵は円高ではなく、韓国企業となるが、韓国経済はすでに崩壊している。


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とは言え、今の日本企業の状態は以上のような簡単な変革もせずに安穏としてきた結果でもある。こうやってみると、日本の家電企業というよりも海外進出している日本企業全体にも当て嵌まる問題点も多い。
ドル安ユーロ安、円高の今、日本企業の欧米でのより一層の活躍を期待したい。