欧州小国の決断

【パリ=山口昌子】ルクセンブルクで十日、実施された欧州連合(EU)の基盤となる欧州憲法の批准の是非を問う国民投票は即日開票の結果、批准賛成が56・52%、批准反対が43・48%の大差で批准が承認された。これによりフランス、オランダの否決で瀕(ひん)死(し)状態だった欧州憲法は一息ついた形だ。
 「欧州と世界へのメッセージはフランス、オランダでの否決後、憲法は死んでいないということだ」。否決の場合、辞任すると表明していたユンケル首相は同夜、こう述べて勝利宣言した。
 同国の批准承認で、憲法批准国はEU加盟二十五カ国中、十三カ国となる。バローゾ欧州委員長は「これは強いサインだ。過半数の国が憲法は世界の舞台でより民主的でガラス張りで効果的な道を開くとの期待に応えているとみなしたからだ」と述べ、「大満足」を表明。EU議長国の英国も声明を発表して批准承認を歓迎した。
 大差で批准が承認された背景には80%を超す支持率を確保してきた首相の個人的人気によるところが大きい。EUの原加盟国としての誇りから極右の小党ADRを除いて与野党も一致して批准賛成に回るという国情もあろう。
 しかし、中、東欧など人件費の安い国に職場を奪われるとの懸念から、労働層や若年層にはEU統合への反対が根強い。人口約四十五万の小国にとって、欧州議会での決定方式が人口を基準にしているため、ポーランドなど新規加盟国であっても人口が多ければ有利であることに不満は多い。
 六月中旬のEU首脳会議(欧州理事会)では、フランス、オランダの否決を受けて、二〇〇六年十一月としていた憲法の発効目標を延長することで合意した。これまでにマルタが批准承認しているが、デンマークポルトガルなど六カ国が国民投票の実施延期を決め、スウェーデンフィンランドも議会での採決を延期した。
 今回、ルクセンブルクが承認したものの、憲法が発効するにはEU全加盟国の批准・承認が必要。今回の批准承認も「象徴的な意味しかない」(EU外交筋)との指摘もある。
産経新聞)

ルクセンブルクは人口約46万人、大きさは神奈川県位の小国だ。だが、国民一人当たりの総所得額はリヒテンシュタインに次いで世界第2位となっている(ちなみに、日本はスウェーデンノルウェーに次いで世界第5位だ)。公用語はドイツ語・ルクセンブルク語・フランス語だが、日常会話はドイツ語方言であるルクセンブルク語が主体だが、対象的に公的機関はフランス語が主体となっている。民族構成はゲルマン民族ケルト民族の混血が多い。
これらデータからも分かるようにルクセンブルクもまたドイツ語系ゲルマン民族の一部を成している。ドイツ語を主とするゲルマン民族は欧州に1億人以上おり、東のスラブ民族と共に欧州において重要な民族である。ドイツ語系ゲルマン民族はドイツ・オーストリア・スイス・リヒテンシュタインルクセンブルクと各国に跨っている。かつて、ドイツ語系ゲルマン民族は二度の大戦に負け居住地を追われた。EUの拡大構想とは、古代ゲルマン民族の特徴を色濃く残すドイツ語系ゲルマン民族の新たなる理想の拡大を示唆しているのかもしれない。他の欧州諸国は、無意識の内に彼らの勢力拡大を恐れているのだろうか。