夜目


ドイツ人は夜間でも眼が利く。彼らの目は、長い冬の夜と深い森が生み出した産物なのだろうか。


ドイツは間接照明が多く、電球色が好まれている。日本人にとっては暗すぎる部屋でも彼らは平気で読書をする。オフィスや学校は対照的に自然光の蛍光灯だが、朝晩の暗い冬でも殆ど電気を点けない。
日本人からすれば暗闇に近い状態での仕事だが、彼らはその方が仕事に集中出来るという。
夜間における車の運転も同じに思える。アウトバーンは照明や反射板の無い区間が多く、頼りになるのは道路に描かれた車線だけ。青い目だから可能なのか、小さいときから暗い環境になれているからなのかは、分からないが、ドイツ人は昼間と同じスピードで突っ走る。私では100M先さえ見えないような雨の夜間走行も、彼らにとって苦ではない。


私も最近ではドイツの環境に影響されてか、頭の痛くなるような日本のコンビニ夜間照明や、室内の眩しすぎる蛍光灯を受け付けられなくなった。時を同じくして、ドイツの光に安らぎを求めるようになった。
照明は、心の豊かさの度合いや精神状態を顕しているのかもしれない。眩しさを求める行為は、刺激を求める行為にも似ている。明るさだけを求める行為は、寂しさや明暗に対する恐れの裏返しなのだろうか。しかし、暗さを追放した明るさは決して安らぎを与えてはくれない、苦しみに満ちた人生の中にある喜びの尊さを教えてはくれない。
ドイツ人は照明に自分自身や人生を投影しているのかもしれない。だからこそ、明るさの中でも暗闇を求めているのだろう。