ドイツにおける格差拡大


以前、平均的ドイツ人の一日を紹介したが、何を持って平均と定義するかは実際には不可能だ。今回は格差をテーマに平均的?な高所得者低所得者の40代男性を紹介してみたい。
今回の範疇には含まれないが、ドイツには日本の金持ちなど足元にも及ばない大金持ちも多く、浮浪者の数も日本の比にならないほど多い。


※2006-07-26 ドイツ人の牧歌的一日


古都ドレスデンに住むMatthias Hoffmann(マティアス・ホフマン)。彼は、貿易商社の営業責任者。家はドイツでは珍しい一戸建てで、広大な庭もある。小高い丘陵地帯に有り、眼下にはエルベ川が広がる。
朝、彼が起きると既に朝食は出来上がっていた。ほどなくして、妻も別の寝室から現れた。朝食はいつもフィリピン人の家政婦が作ってくれている。妻の実家で家政婦の姉妹が働いており、その縁もありドイツに来れた。
大学時代に知り合った妻は西ドイツの貴族出身で、家の名義は妻だ。故に彼は妻に頭が上がらないが、精一杯のお返しとして妻の贅沢には目を瞑っている。彼女はエステにスポーツにお洒落と金に糸目を付けない。貴族といっても今は名ばかりで様々だが、彼女の実家は西ドイツで未だに広大な土地を所有している。
8歳の一人娘も眠気眼を擦りながらやってきた。彼の教育方針で、娘は家政婦と英語で会話をする。
彼は朝食を食べながら、いつものように経済ニュースを見ている。最近の不満は東ドイツの経済沈滞だ。「VERDAMMT(やれやれ)、私も将来に備えて西ドイツで転職先を見つけなければならないかな・・・」妻は妻で、いつものように家政婦と雑談をしながらの朝食だ。
朝食を終えると、彼はヒューゴ・ボスのスーツを着込んだ。別段高くはないが、ドイツブランドとの事もあり、しっくりくるようで、同ブランドのスーツは数多く所有している。今日は終日内勤との事もあり、ネクタイは締めない。時計はブレゲの機械式時計タイプXX。伝統的なデザインながらスポーティーなところが気に入っているようだ。一点豪華主義の彼は、時計には拘っている。
服を着替え妻に挨拶をすると、ガレージに向かった。ガレージは4台分の広さあるが、3台しかない。一台は彼の愛車BMW550iセダン。まだまだショーファードリブンの身分ではないので、これが精一杯の車だ。ガレージには他に妻の愛車ポルシェ・カイエンと、ドライブ用にポルシェ・911カレラSカブリオレがある。本当は趣味用にクラシックカーが欲しいが、妻が許してくれない。彼は愛車に乗ると、いつもの通勤ルートを走っていった。
会社には既に数人の社員が仕事をしている。午前中、彼は日本と中国の取引先との電話やメールに終始した。
12時、昼食の時間だ。今日は部下と寿司を食べに行った。箸の使い方も手馴れたものだ。
午後、ようやく朝になったニューヨークに電話とメールを始めた。
夕方4時、今日は早めに帰宅しなければならない。今夜は妻とディナーの約束があるが、その前に行くべきところがある。彼はスポーツジムでほぼ毎日、体を鍛えている。体型を維持するのが彼の日課だ。「妻のお目に適うのも大変だ・・・」彼は沈みゆく夕日を見ながら、今日もサイクルマシーンを漕ぐ。



Dirk Bock(ディルク・ボック)。彼はドレスデン郊外高層アパートの10階に住んでいる。現在失業中で失業保険でなんとか食いつないでいる。既に数え切れないほど転職を繰り返しているが、仕事先を見つけても過酷な労働条件の為、長続きしない。
眠い目を擦りながら、彼は起きた。既に妻は起きている。娘は早々と学校に行っており、もう居ない。妻は彼に会うや否や「Scheisse(くそ)!」と一言発した。
彼はふてぶてしく妻を睨んだ。妻は彼の表情に更に嫌気が差したのか「あんた昨日、酒飲みすぎでイビキが煩くて眠れなかったわよ!」と吐いた。
彼はほぼ毎日、酒を飲んでいるが昨日はサッカーを見ていて飲みすぎたようだ。「臭い!Scheisse!」彼の体はアルコール臭が充満している。彼も攣られるように一言呟いた「Scheisse・・・」彼も妻も口癖はScheisseだが、察しの通り推奨できる言葉ではない。二人は無言でチーズを挟んだ黒パンを二つ口に運んびコーラを流し込んだ。
「Scheisse!車の一つでも持てる家族になりたいわね!」妻はブツブツ言いながら家を出ていった。妻はスーパーでパートをしている。
妻を見送ると、彼はでっぷりと太った体を揺さぶりながら犬を連れて散歩に出かけた。明らかに太りすぎだが、妻も同じ体型なので気にならないようだ。随分と少食の割には、何故か二人とも一向に痩せない。
散歩がてらビデオショップでDVDを借り、昼はDVDを見た。昼食も朝食と同じくチーズをはさんだ黒パンとコーラだ。
昼過ぎ、再び犬を連れて今度は酒も売っている駅構内のキオスクに行った。店の中だと高いが、キオスクは酒代だけなので安い。キオスクの前には既に何人かの友人がたむろっていた。「おお同志!」ビール瓶を片手に持った友人が声を掛けた。既に出来上がっているようで上機嫌だ。彼もビールだけを買いキオスク前で談笑を始めた。失業中でもあり、1EURにもならないビール1缶で数時間粘るのが彼の日課だ。
夕方5時、妻が帰宅する位に家に着く。娘は既に家に居たようで暢気にTVを見ている。程なくして妻が帰ってきた。妻は開口一番に就職活動の状況を聞いてきたが、彼は素っ気無く「無かった」と返した。
夕食も黒パンだが、スライスしたFrikadelle(ハンバーグ)が挟んである。娘の他愛もない話を聞きながら質素な食事をするのが毎日の日課だ。
夕食を終えると、彼はシャワーも浴びずにそのままベッドに入り込んだ。



※ドイツの格差問題と最低賃金制度の再構築


※2008-8-28 ドイツ 賃金の格差拡大、二極化進む[社会]

ドイツで賃金格差が拡大している。デュイスブルク・エッセン大学の労働能力研究所(IAQ)が26日発表した最新調査で明らかになった。

IAQは2006年の賃金水準を4段階に分け、それぞれの1時間当たりの実質賃金を算出した。一番下のカテゴリーでは1995年に比べて13.7%減少。逆に一番上のグループでは3.5%増加している。

また全体に占める割合は最低の層が15%から22.2%に拡大。最高の層も26.3%へと4.5ポイント伸びた。一方、中間の2つの層は縮小している。

なお連邦統計庁はこの日、2006年の女性の平均時給が14.05ユーロ(2,300円)になったと明らかにした。男性の18.38ユーロを24%下回っており、依然として男女間の賃金格差が大きいことが浮き彫りになっている。


ドイツでは月収EUR876(日本円約14万円)以下の世帯が貧困になる可能性が高い層(貧困予備軍であり、貧困層ではない)とされており、その数約1060万人とされている。失業率の高さから年々失業保険は減っており、今後更に貧困層は拡大するものと思われている。


井の中の蛙、大海を知らず。格差社会・税負担増・物価高騰等の不満も多いが、諸外国の方が更に酷い惨状だ。日本は、少なくとも諸外国と比べれば理想的社会主義国家といえる。


社会への不平不満、政治家への責任転嫁ばかりするのは卑怯ではないだろうか。少なくとも諸外国の人々は政治家を汚いものと思いながらも、国家の指導者を信用し擁護する。自国を卑下する事もない。
日本人は政治に興味がないにも関わらず、本質を理解していないにも関わらず、政治が悪い国が悪いと言う。他国を知りもしないで、日本は絶望だと言う。本来であれば、そのように安直で恥ずかしい妄言は吐かないはずだ。それは甘えであり、政治家や他国の人々に対しても失礼な言動なのだから。


どの国家にも一長一短がある。もし、日本に不満があるのなら、日本を出ればよい。それが出来ないのであれば、不満を言うよりも他に、やるべきことがあるのではないだろうか。


格差拡大は全世界的なものであり、国内だけで解決できる問題でもない。諸外国と比べ格差の少ない日本は、世界に格差是正を訴えるだけの資格がある。
環境問題における京都議定書もそうだが、それが世界に対する日本の役割に思える。


※2008-08-11 ドイツの給与平均


※2008-03-03 ドイツ外食産業が示唆する格差社会


※当日記内:格差関連