先進国首脳会議が示唆する日本の指針




最近、産経新聞が変だ。今回は麻生首相によるドイツに対する忠告を、“麻生首相がドイツを名指しで「批判」”と事実と異なる見出しで報道した。
記事の大本は英国フィナンシャル・タイムズ紙だが、同紙は3月30日に麻生首相への独占インタビューをしている。
以下、(フィナンシャル・タイムズ 2009年3月31日初出 翻訳gooニュース)からの抜粋によると、麻生首相は質問について解答したに過ぎず、ましてや唐突にドイツを名指しで批判したわけではない。


麻生太郎首相、単独インタビュー G20内の分裂を浮き彫りに――フィナンシャル・タイムズ (フィナンシャル・タイムズ 2009年3月31日初出 翻訳gooニュース) 

(以下、抜粋)
FT: 首相が冒頭で指摘された財政出動の重要性についてお聞きします。一部の国家首脳は、ここでは特にド イツ首相を念頭においているのですが、「今はすべての国が金を使うべきではないし、国によっては支出が多すぎる」と問題提起しています。日本は財政出動を 増やす責任があるとお考えですか? そして、具体的な数字は言えないでしょうが、日本がある程度の財政出動を実施すれば、日本経済の状態について諸外国を 安心させられると思いますか?


問題は同内容を各報道機関がどのように解釈して報道するかだが、概ね“日本がドイツを非難”との見出しになっている。それらとは異なり、日本の産経だけが、“名指し”と誤解を与える見出しだったが、対談の脈略を見もしない記者の浅はかさが窺い知れる。


事の流れは各社記事の発表を時系列に追っていくと分かる。
英国フィナンシャル・タイムズが3月31日に初出報道し、ドイツDPAのウェルト紙が4月1日にJapan attackiert Merkels Wirtschaftspolitik “日本がメルケルの経済政策を非難”との見出しで報道している。ドイツにおける報道については、自国の話題だから問題視するようなものではない。見出しこそセンセーショナルだが、冷静に分析された記事となっている。
記事にはフランスや欧州諸国も持ち出されており、記者は欧州に対する助言と解釈しているように思える。
記事からはドイツを単独で言及しているようには思えない。メルケル首相を記事に出しているのも、以下の文章だけである。


Japan attackiert Merkels Wirtschaftspolitik  1. April 2009 dpa/ks

Merkel und andere europäische Regierungschefs hatten es abgelehnt, nochmals zusätzliches Geld in neue Konjunkturpakete zu pumpen.

(メルケルと他の欧州首脳達は追加経済政策の導入を拒否している。)


「麻生首相がドイツを名指しで「批判」」:イザ!産経新聞 2009/04/02


更に酷いことに、毎日新聞産経新聞同様にメルケル首相の発言を勝手に解釈した。
4月2日の見出しは“<独首相>麻生首相発言に不快感 「追加的な財政出動慎重」”だった。メルケル首相は麻生首相に対する反論とは言っていないし、不快であるとも言っていないが、“不快感をあらわにした”との個人的な心情を記事にして印象操作している。


独首相:麻生首相発言に不快感 「追加的な財政出動慎重」毎日新聞 2009年4月2日 

【ボン小谷守彦】金融サミットを控えた麻生太郎首相が1日付英紙フィナンシャル・タイムズとの会見で、追加的な財政出動に慎重なドイツを批判したことに ついて、メルケル独首相は同日、「我々の見解ではドイツは多大な貢献をしている。(現在進めていることがらを)性急に進めようとするのは、本当に無意味な ことだ」と不快感をあらわにした。

 麻生首相の発言は「日本がメルケル(独首相)の経済政策を攻撃した」(電子版ウェルト紙)などとメディアをにぎわせていた。


最初にフィナンシャル・タイムズが“名指し”でドイツを対象として問題提起しており、同記事を読んだドイツDPA記者が麻生首相が自国を話題に出しているとの事で、ドイツだけではなく欧州全体の指針として記事にした。
次に、ドイツにおける報道を元に各国報道機関が記事にし、その中に産経新聞毎日新聞も含まれていたのだろう。
誘導尋問をするフィナンシャル・タイムズも厭らしいが、それを元に自国首相を貶める日本の報道機関は更に厭らしい。


日本とドイツは、今後も第二位三位の経済大国として協力していかなければならない。
しかしながら、先進国民の間では実のない首脳会議に反対し今回の失敗を予想している者も多い。
更には、衰退激しいアメリカは、体力を残している経済力世界第二位三位の日独が協調し自国の地位を脅かす事を恐れている。EUに組しながら独自通貨と独自路線を行く英国は、米国と同様に金融バブルの直撃を受けている。海外派兵でも常にアメリカと足並みをそろえている英国は今や、欧州よりもアメリカ寄りといえる。
日本がどのような外交を築くべきか、どの国家が日本を利用し貪ろうとしているか、工作や報道に騙されず冷静に推察する必要がありそうだ。