百貨店不振の要因と打開策


天候不順で春物衣料不振 4月、大手百貨店 2010.5.1 産経新聞

高島屋伊勢丹など大手百貨店各社が1日発表した4月の既存店売上高(速報)は、天候不順による春物衣料の不振が響き、そごう・西武を除き前年同月を下回った。ただ宝飾品など高額商品の販売では堅調な動きもみられた。

 三越伊勢丹ホールディングス傘下の伊勢丹は前年同月比4・2%減少。三越は4月に地方の店舗を分社化し、三越全体の数値は公表しなかったが、首都圏3店舗の合計では、銀座店(東京)の増床工事の影響もあり、13・5%減だった。

 J・フロントリテイリングが運営する大丸と松坂屋は合計で2・0%減。ジュエリーなど宝飾品は堅調だったため、同社は「天候不順という特殊要因はあったが、消費者心理は改善している」と分析する。高島屋は3・0%減だった。

 そごう・西武は約1%増と前月に続き、前年実績を上回った。婦人ストールなど防寒商品の品ぞろえを強化したことが寄与した。


09年の百貨店売上高は10%減の6.5兆円、80年代並の低水準 2010年1月23日 不景気.COM


百貨店の売り上げが落ちている。マスメディアは安直にも不景気や異常気象の所為にしているが、ネットショップや専門店の売り上げは伸びており、もはや百貨店は消費動向を計るバロメーターではなくなった。
それでもマスメディアが取り上げるのは、以下の要因が考えられる。

  1. 恒例化している
  2. 各販売網を調べるのが面倒
  3. 不景気な話題が好き


百貨店はテナントに依存しすぎている。売場と呼ばれるコーナーも直営ではなく実際にはテナントであり、百貨店は中間搾取業者に過ぎない。テナント任せは郊外型ショッピングモールも同じだが、地価の高い一等地に立地し、高圧的な百貨店社員まで養わなければならない環境よりも、安いテナント代だけ払えばよい郊外型ショッピングモールの方がテナント側にとっても魅力的に写ってしまう。
更に最近では、郊外型ショッピングモールだけではなく、ブランド直営店や専門店にも顧客を奪われるようになった。ブランド数で専門店に敵わず、品数でブランド直営店に敵わない百貨店は苦戦をしいられている。


百貨店の利点としては全て委託販売、即ち仕入れをしないとの事であり、仕入れによる在庫や戦略を練るコストを削減できる事だが、利点は欠点にもなる。
専門店も委託販売をしているが、メーカーと直接交渉ができ、百貨店とメーカーの関係よりも密であり、更には100%委託販売ではなく、メーカーと良好な関係を築くために仕入れもしている。故に、専門店は市場を的確にリサーチする必要があり、結果として百貨店よりも迅速かつ的確な戦略が確立できる。
イトーヨーカドーやイオンなどの大型スーパーは、ほとんど仕入れであり、内実は百貨店よりも専門店に近い。


日本の多くの百貨店は江戸時代の呉服店の流れを汲んでいるが、営業体系は欧米の百貨店を手本としている。
しかしながら、内実は大分異なる。ドイツの百貨店としてカールシュタットやカウフホーフが挙げられるが、日本の大型スーパーに近い。カールシュタットは破産手続き中であり運営は芳しくない。
手本とすべき欧米百貨店だけではなく、日本の大型スーパーの売り上げも伸び悩んでいる中、日本の百貨店が現状のままで生き残る術はない。
現状打破として日本の百貨店は庶民化路線を狙っているようで、ユニクロやFOREVER 21をテナントとして受け入れるようになった。


そもそも、昔の百貨店は庶民路線だった。百貨店が高級路線に変わったのは、郊外型の大型スーパーやショッピングモールが出現したからだが、結果として裕福層しか顧客がいなくなり、外商や催事頼りとなり、本陣である店舗の活気が失われた。


しかしながら庶民化路線への復帰では、百貨店の利点は限られる。大型スーパーやショッピングモールよりも勝る点は立地条件しか残らないが、利点である立地条件は高額な維持費を生み出し、郊外型の大型スーパーやショッピングモールよりも収益が少なくなるのは目に見えている。更には、庶民の車族を除外させてしまう。


百貨店が生き残るには、庶民化路線への復帰ではなく、従来どおりの高級路線の改善にあった。厳密には、庶民の手が届く高級路線と、裕福層相手としての外商と催事の強化にあった。
デパ地下と表現されるように、地下の食品売り場は高級路線ながら活気がある。装身具の高級品は庶民が手を出せない場合が多いが、食品関係は高くても庶民に手の届く価格帯である。
食品売り場を地下と一階に設け、最上階を高級レストラン街にして、その下を常設催事場にし、中階はブランドの直営店舗にする。ブランドは庶民が知っている有名ブランドでなくても良い。時計や宝飾品関連の知る人ぞ知るブランド、もしくは同地域で取り扱い店がないブランドの方が差別化できる。
百貨店としても要員は外商と事務職だけになり人件費が削減でき、テナントとしても百貨店流ではなく、自由に販売促進が可能となり、現状より機動性が高くなる。全てテナント直営であるのは郊外型ショッピングモールと同じだが、高級路線であり、外商の存在する点が異なる。
産経新聞の記事でも紹介されているが、宝飾関係の売り上げは堅調であり裕福層の購買意欲は衰えていなく、外商や催事が好きな人もまだまだ多い。


メディアの受け入りで、百貨店の売り上げ低下を不景気やデフレによる貧困層の増大や気候等、他所に要因を求めているようでは改善できない。
裕福層にも庶民層にも魅力のある百貨店は可能に思える。