日本企業の世界戦略とは


マーチ(ドイツ名・ミクラ)が8年ぶりのフルモデルチェンジとなった。1978年の登場以来、四代目となる。最近の日本車も他国に習ってフルモデルチェンジの間隔が長くなったが、マーチはその先駆けといえる。
フルモデルチェンジの都度、大幅にデザインが変わっていったマーチだが、凡そ10年単位なのだから当然ともいえる。しかしながら、日本企業にミニ(Mini)のような長く愛される車種、そしてデザインが生まれないのは少し寂しい。



オーテックジャパン・マーチ(三代目)特別仕様車「12SR」response.jp


三代目は日本国内はもとより世界各地で様々な賞を受賞したが、四代目は望めそうもない。三代目は個性的でボリュームのあるデザインで存在感があった。四代目も三代目と同じく日本人によるデザインだが、全く正反対な印象を受ける。グローバルコンパクトカーになるとの事で、考えすぎてしまったのだろうか。
日本人特有の失敗を回避して冒険をしないとの負のメンタリティが出てしまい昔のNISSAN、即ちOSSAN(オッサン)になってしまったように思える。


【日産 マーチ 新型発表】160か国で売れるマーチを作るには 2010年7月13日 response.jp

日産自動車は4代目となる新型『マーチ』をフルモデルチェンジし発売した。今回のモデルは日産初のグローバルコンパクトカーと位置付けられる。


デザインを担当したデザイン本部プロダクトデザイン部アソシエートプロダクトデザイナーの山根真さんは、「非常にチャレンジャブルなプロジェクトだと思いました」と振り返る。「プラットフォームも全部変わりましたし、そのうえいままで『マーチ』(マイクラ)が売っていなかった国を含めて160か国に広がっていくのです」。


そして山根さんは、「日産初のグローバルコンパクトカーになるマーチということで、160か国全部で受けるクルマを作ろう、究極の目標はこれだったのです」という。


「日本のマーケットだけを中心に考えて作り、そのクルマを160か国の人に乗ってくださいというのではなく、本当に色々な国のユーザーの話を聞いてどのようなクルマが一番多くの人に愛されるのかを考えて作りました」


そこで、先代マーチを踏まえた方向性として、「あまり性別を感じさせない“ジェンダーフリー”な方向」だったという。「特に先代のマーチは女性ユーザーに好評でしたが、今回は“可愛い”というのではなく、“逞しい”感じにしたかったのです」という。「日本では女性ユーザーがメインではありますが、今度は男性にも乗って欲しいと思ったのです」。そのためには“可愛い”だけではなくて“逞しさ”が必要だと考えたのだ。


しかし、マーチらしさは継承したかったともいう。その“マーチらしさ”とはなんであろうか。山根さんは「新型マーチを見て、誰が見てもこれはマーチだな、マーチが逞しい、頼りがいのある友達になって生まれ変わって来た、と思って欲しいのです」という。


「フレンドリーさというのがマーチらしさだと考えているからです」



四代目・新型マーチ response.jp


「特に先代のマーチは女性ユーザーに好評でしたが、今回は“可愛い”というのではなく、“逞しい”感じにしたかったのです」「日本では女性ユーザーがメインではありますが、今度は男性にも乗って欲しいと思ったのです」 と述べられているが、三代目のデザインは女性ユーザーだけに好評だったとは思えない。ボリューム感のあるデザインは男性にも受けレース車両としても人気であり、様々な改造車がある。
マーチのユーザーに女性が多いのはデザインではなく、CMや店頭での売り込みで明らかに女性をターゲットにしたマーケティング戦略をしているからに過ぎない。日産が勝手に「女性の為に!」と押し付けた為に、男性の購買意欲を必要以上に削いでしまった。ドイツでもマーチのCMは女性がターゲットであり、日産の戦略は世界共通だった。
問題なのはマーチのデザインではなく、マーケティング戦略にあった。




ニュージーランド用CMだが、ドイツも同一)


デザインを担当された方に対しては愛社精神を讃えたいが、上手い具合に自社の戦略に洗脳されてしまったように思える。
専門用語や隠語などが良い例だが、勤め人の場合、業界内で通じる用語が業界外でも通じると思ってしまうことが時々ある。使っている本人は世間一般に通じる言葉だと思っているが、聞いている相手にはさっぱり伝わらない。それと同じように、マーチは女性ウケするとの日産内のイメージが世界共通とも限らない。


ドイツでは幸いに、日本ほどマーケティング戦略が浸透していないとの事と、世間体をあまり気にしない男性が多い為、日本とは比較にならないほど、マーチの男性ユーザーが多い。
更に、ドイツではマーチのライバルはフォルクスワーゲンならばポロというよりもゴルフがライバルと成りえることもあり、コンパクトカーというよりもミドルモデル扱いに近く、必然的にマーチは男性にも需要があるサイズになる。


そもそも、男性が好きなスポーツカーは曲線を多用した丸みのあるデザインが多い。トヨタ・bBや、ダイハツ・ムーブなどは角張ったデザインだが、女性のファンが多い。
車の形状から異性の体をイメージする為だが、売り手が考える「丸みのある車=女性へ」「角張った車=男性へ」とは明らかに異なる。


「日産初のグローバルコンパクトカーになるマーチということで、160か国全部で受けるクルマを作ろう、究極の目標はこれだったのです」との事だが、グローバルコンパクトカーだからといって、安直に世界の車社会に合わせた車を考えていたら消去法しかできなくなり、味気のない無難な車しか生まれない。


世界には様々な車社会があるのだから、本来であれば合わせようがない。例えば、日本と異なるドイツ車社会の特徴として、幾つか挙げられる。排気量ではなく、馬力で税金が変わる、軽自動車枠が無い、駐車場登録が必要なく路上駐車が多い、エアコンが標準装備ではない車種が多い、3ドアがスポーティとの事で根強い人気を持っている、マニュアル車でないと車ではないと思う人が未だにいる等が挙げられる。


法的な部分は簡単には変わらないが、車に対する個人の要求は時代と共に変化する。ドイツでも日本のようにオートマ車やエアコン装着車や4ドア車が普及しつつある。
人は利便性を求める生き物でもある。携帯電話の環境も日本と世界は異なるが、多機能のアイフォンに代表されるように世界の携帯電話が日本の携帯電話の性能を追従しているのも同じ流れといえる。
これら事象によって、キーポイントは「合わせる」のではなく、「変えさせる」との事が分かってくる。


「日本のマーケットだけを中心に考えて作り、そのクルマを160か国の人に乗ってくださいというのではなく、本当に色々な国のユーザーの話を聞いてどのようなクルマが一番多くの人に愛されるのかを考えて作りました 」と述べられているが、「日本のマーケットだけを中心に考えて作り、そのクルマを160か国の人に乗ってください」と考えるべきだった。考えて欲しい。イタリアのメーカーがドイツ車を真似て質実剛健で保守的なデザインの車を作ったら魅力的に見えるのだろうか。逆に、ドイツ車がイタリア車の様にじゃじゃ馬でデザインだけを重視した車になってしまったら購入したいと思うだろうか。
世界が考える日本車のイメージとはなんだろう。確かに、昔は「安いながらも実用的で無個性」だったのだろうが、今は「故障知らず、ハイテク、洗練されたデザイン、日本」になっている。トヨタプリウスには、これらイメージが凝縮されている為か、欧州で爆発的に売れている。
四代目マーチに対しては、一昔前の日本車のイメージしか思い浮かばない。そのうえ日本国内生産をしないとなれば、何に魅力を感じたらよいのだろう。



トヨタ・プリウス response.jp


トヨタ プリウス、欧州累計販売が20万台…10万台からわずか2年 2010年7月18日 response.jp 


日本は世界の最先端を走っている。食、家電、車のみならず、アニメやゲーム等の現代文化まで、あらゆるものが世界に受け入れられている。
日本を追っている世界に合わせる必要はない。日本人ウケするものを、ついでに世界の人にもと考える位でなければ世界は受け付けない。日本のアニメやゲームは世界中で人気があるが、世界市場を相手に作られたわけではないし、世界市場向けに編集しているものは殆ど無い。


日本の飲料業界は世界で一番、消費者を啓蒙するのが上手い。一昔前は冷たい緑茶などは殆ど飲まなかったし、ウーロン茶も奇異な目で見られていたが、今では誰も彼も飲んでいる。アイスコーヒー飲料にしてもアイスティー飲料にしても日本ほど豊富に出回っている国はない。これらは日本の飲料業界の果敢な開発、戦略の成果でもある。


世界が日本に求めているものは何か、それに対しどう振舞うべきか、日産だけではなく日本人は改めて考える必要がある。


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