今後のゲーム市場


Wii U本体デラックスセットの予約在庫が全米のGameStopで売り切れ−海外報道 - Game*Spark 2012年09月15日



任天堂Wiiの後継機といえるWii Uの情報が、続々流れている。アメリカでは小売店やオンラインショップでも予約で売り切れとなっているから、出だしは好調の様子。
世界に通用する日本のゲーム産業。その中でも任天堂は代表格でもあり、一日本人としてWii Uには期待している。
しかしながら、一抹の不安もある。現状における日本の携帯電話のように、ガラパゴス化する危険性がある。その前兆は、3DSからも窺い知れる。


ドイツでもWiiやDSは爆発的なヒットとなった。日本と同じように、成人した友達同士でWiiをしたり、高齢者がDSをする姿が見られたが、3DSは殆ど話題になっていない。
これには、やはりスマートフォンの影響が大きい。日本では、メーカーが国内市場にだけ満足し、スマートフォンの開発に躊躇していたためか、ガラパゴス携帯が未だに幅を効かせているが、ドイツは日本以上にスマートフォンが浸透している。


◆携帯ゲーム機のライバル


数年前までのドイツでは、日本のような多機能携帯は皆無だった。携帯電話で電話以外にやっていることは精々、SMSを送るくらいだった。
欧米人は割りきっており、細かいことも嫌いで、携帯電話には電話の機能しか求めないと断言していた日本の企業人もいたが、iPhoneの登場で一転した。今やドイツ人も日本人と同じように、スマートフォンの画面と睨めっこしている。インターネットを見たり、ゲームをしたりと、電車でも、歩道でも、喫茶店でもお構いなしだ。
電車で携帯電話ばかり見ている日本人を、日本に観光に来たドイツ人が物珍しく見ていたのが、それ程昔ではないだけに、劇的な変化といえる。


携帯電話がスマートフォンによって一転したように、ゲーム市場も一転したと考えなければならない。


スマートフォンでゲームをする人が、ドイツでも増えている。最近では3Dゲームができるスマートフォンもあり、3DSの利点は少なくなっている。
そもそも、携帯ゲーム機はライトユーザーが多い。外に持ち歩くにしても、スマートフォンでゲームができるのに、更に3DSも持ち歩こうとは相当のゲーム好きでもない限り思わない。
ではスマートフォンの利点とはなんだろうか。

  1. タッチペンを使わず、色々なボタンも押さなくていから、操作が簡単で面倒がない
  2. 傍から見ても野暮ったく見えず、ゲームをしているとは思われない。
  3. 通信ゲームは日替わりでアイテムを得られたり、イベントがあったりと飽きさせない。
  4. DSもWi-Fiで通信ゲームができるが、ソフトを購入する必要がある。スマートフォンは無料のゲームも多いので、初期投資においてDSはスマートフォンに敵わない。


故に、3DSがヒットしなくなる。ソニーも携帯ゲーム機として、PSPPlayStation Vitaを出しているが、売上げが伸びていない。


◆今後の携帯ゲーム機に必要なもの


今後、売れる携帯ゲーム機は、スマートフォンもしくはタブレット端末との融合しか有り得ない。この点では、ソニー・エリクソンスマートフォン技術を培い、本社としても、タブレット技術を持ったソニー任天堂に勝る。
しかし、通信ゲームにする必要はない。過去のゲーム機カードも利用できるSDスロットを付け、従来通りゲームはカード販売する。スマートフォンは無料のゲームが多いとはいえ、一定の利用を超えた場合は課金制になったり、無料でもパケット代が発生したり、通信環境でないとゲームが出来なかったりと不便な点も多いが、カードならば初期投資以外にお金もかからないし、場所も気にならない。
カードを差し込むだけでゲームが出来る利便性、そして安心感は、通信ゲームでは得られない。スロットにゲームソフトを入れるとの点で、嘗てマイクロソフトと日本のアスキーが共同開発したパソコンMSXタブレット端末バージョンと表現してもいい。


最近は、PCでもゲーム環境に特化した物がマニアに売れている。ライトユーザーはそもそも、スマートフォンにハイスペックなど求めない。精々インターネットを徘徊するくらいだから、ゲームに特化したスペックを持ったスマートフォンなりタブレット端末で、不便を感じることはない。勿論、高解像度は必須といえる。
物理ボタンも十字キーと選択ボタン2つ程度の必要最小限に特化して、見た目もスッキリさせライトユーザーにも扱いやすいようにする。
タッチペンも不要とし、ボタン操作を極力減らし可能な限りタッチスクリーンだけで操作できるようにする。ただし、物理ボタンはタッチスクリーンよりも扱いやすいので無くしてはならない。


任天堂はアップルと同様に、常に時代の革新をしてきた。ファミコンは家庭用ゲームの地位を確立した。DSは、携帯ゲーム機として空前の売上を伸ばした。Wiiは、体を動かすという嘗てないゲーム感覚を齎した。そして、世界初の立体携帯ゲーム機である3DSと続く。
確かに、新しい発想は必要だが、現状の市場を見て欲しい。サムソンは技術も革新性もないが、携帯市場を席巻した。嘗て、ソニーが開発したビデオテープ“ベータ”は日本ビクターが開発したビデオテープ“VHS”よりも品質が優れていたが、市場においてVHSには敵わなかった。
いくら、最先端でも、革新的でも、売れなければ意味がない。これからの携帯ゲーム機に必要なものは、普遍性に思える。
ゲームの為だけに買う人を取り込むよりも、電話やインターネットの為に買う人を取り込むほうが楽なのは、自明の理だ。


◆家庭用ゲーム機 について


かつてスクロールでゲーム機に劣っていると言われたPCゲームも、DirectXの登場でゲーム機を超えた。低価格のパソコンは別として、ハイスペックのパソコンであれば、家庭用ゲーム機以上の高画質でスムーズなゲームを堪能できる。
日本ではPCゲーム市場は死に体だが、ドイツは違う。PCゲームは大きい市場であり、どこの家電量販店でも家庭用ゲームと同面積の売り場を有している。ソフトの価格は新品こそ高いが、半年もすれば値が下がったりバリューバージョンが売りだされたりと、中古ではなくて10EUR(1000円)以下で買えるソフトも多い。
それでも、PCゲーム市場が家庭用ゲーム機市場を潰せない理由は以下が挙げられる。

  1. スムーズにゲームができるパソコンは、ゲーム機よりも最低でも倍以上の値段がする。
  2. パソコンを立ち上げてからゲームをするまで、時間がかかる。
  3. 大画面でゲームができない。
  4. インストールが面倒。
  5. フリーズすることがある。

PCシュミレーションゲーム TOTAL WAR SHOGUN 2 コレクションエディション


SHOGUN


ドイツでは、日本企業のセガが発売している。コレクションエディションを発売当時EUR79.99(8千円)で買ったが、冊子と武田信玄のフィギアの特典が付いていた。
発売時は高いが、今では通常バージョンはEUR10以下で売られている。PCゲームのみで、家庭用ゲームでは販売されていない。日本のゲーム会社・光栄の歴史シュミレーションゲームよりも写実的で、戦闘場面も兵士一人ひとりの顔まで異なり現実に近い。今年は幕末編がリリースされた。
TOTAL WARシリーズはローマ帝国編に始まり全て買っているが、光栄のソフトは全く買わなくなった。嘗ての『蒼き狼と白き牝鹿ジンギスカン』のリメイクでも出れば欲しいが、『信長の野望』『三国志』シリーズも、今では子供向けとしか思えない。
ギャルゲーが全く流行っていないドイツでは、アクションだけではなく、シュミレーションやアドベンチャーなど、大人でも楽しめるPCゲームが多い。


Total War: Shogun 2 (輸入版)

Total War: Shogun 2 (輸入版)


ドイツではゲーム機は基本的に未成年や女性や高齢者の物、PCゲームは成人男性の物との住み分けができている。
故に、スマートフォンという新たな競争相手を持った携帯ゲーム機市場とは違い、家庭用ゲーム機市場は今後も伸びると思われる。


携帯ゲームも家庭用ゲームもライトユーザーが多いとの点で一致する。今後の家庭用ゲーム機も、如何にライトユーザーを死守できるかで未来が変わってくる。
その点で、Wii Uは不安が残る。嘗て、セガアーケードゲームが好きなコアユーザーに的を絞ったために、シェアを伸ばせすハード産業から撤退した。セガのハード“ドリームキャスト”はインターネット通信や液晶モニター付きコントローラーなどを有し革新的で今でも通用するハードだったが、ライトユーザーには倦厭された。
Wii UWiiの対応コントローラと相互できるが、新規ユーザーは、様々なコントローラーを別に買わなければならない。モニター付きコントローラーでもゲームができるが、本体を起動して近くに置かない限り、コントローラー単体では遊べない。
これらを鑑みると嘗ての“ドリームキャスト”にダブって仕方がない。即ち、マニアに特化したガラパゴス化の懸念がある。
Wiiは、単純にスペックだけを上げた方が良かったように思える。その点で、あまり冒険をせずスペックの向上だけを求めるソニーの家庭用ゲーム機は、今後も安定した需要があるように思える。
今の性能でも充分でありハードよりもソフトとの意見もあるが、家庭用ゲームは、海外のハイスペックPC用ゲームの足元にも、まだ及んでいない。
ソフト開発の観点からもWii U用に作るよりも、PCゲームを対応スペックに変更するだけで済むゲーム機の方がコストも手間もかからないし、PCゲームユーザーが家庭用ゲームユーザーに変わる可能性もある。


ドイツにおける日本以上のスマートフォンの普及、そしてPCゲームの繁栄。これらだけでも、日本市場とドイツ市場、世界市場では乖離がある。
自企業の高技術にばかり拘って慢心している日本企業も多い。いくら技術力が有っても、市場を読めない企業は潰れる。
任天堂ソニーは世界的企業であるから既に分かっていると思うが、日本企業に今一番必要なものは、綿密な市場リサーチだけだ。難しいことではない。


当日記内関連記事:海外進出する日本家電企業に必要なもの