ドイツと日本における住環境に対する捉え方の違い


ドイツと日本では、住環境に対して求めるものが違う。日本では駅近や商業施設のある中心地区が好まれるが、ドイツでは余り好まれない。


嘗ての日本は、再開発による中心部の商業施設化や事務所化が要因で、ドーナツ化現象が起きていたが、最近は中心部に次々と新しいマンションが建設され、人口が戻りつつある。対照的に、歴史的景観を大切にする欧州は、日本や他諸国のような大規模な再開発が殆どないので、古い建物が多い中心部は人口の増減が少ない。
故に道も一方通行の狭い道が多く、路上駐車ができないばかりか、地下駐車場のある新しいマンションも少ない。更には、六階建てでエレベーターがないことも普通にある。結果として、車を持たない若者や単身者、子供のいない外国人夫婦が多く住むようになる。大都市部ほど顕著だが、再開発の激しいベルリンは例外としておきたい。
駅前に集まるのは一般市民だけではない。ジャンキーやアル中、浮浪者も屯っており、警官も詰所に常駐し、物々しい。故に、都市部ほど治安が悪くなり、高所得者は住みたいと思わなくなる。


では、高所得者は何処に住むのか。
ドイツの場合、高所得者は自家用車を何台も持っており、商業施設が近くなくても良いし、バスや鉄道等の公共交通機関を必要としない。

彼らは、街中の刺激よりも自然の安らぎを求める。故に条件は、広い庭と駐車スペースがある家、立地は、ヨットやカヌーで遊べるような大きな川や湖、更には森林公園や街路樹が数多くある場所となり、必然的に郊外となる。郊外といっても、日本の大都市のように不便な距離ではない。ドイツは、大いなる田舎と言われいるように、大都市でも中央駅から車で十数分走れば、放牧場や農地などの広大な土地が広がる。
ただ、こういった場所は車を持たない貧困層や若者には住みにくい。夜中は家の明かりだけになり都会よりも暗く、人通りも少なくなるが、怪しい人が近づけない場所であり、住民も豊かな人が多いので、治安は安定している。


貧困層は何処に住むのか。
彼らの多くは車を所有していないので、公共交通機関が近くにあるのが絶対条件となり、家賃が安く、ショッピング・モールがあれば最高となる。それら条件を満たせば満たすほど、低所得者や、大家族の移民、失業者が多く住む地域となる。
これらは郊外でもなく中心でもない、中間的な立地が多い。一番の特徴は高層住宅群で、10階以上の建物が連なることもある。日本の高所得者には高層住宅を好む人も多いが、先ほどの例のように自然を愛する人が多いドイツでは殆どいない。眺めは良いのだろうが、エレベータという密室空間を好まない人も多い。嘗ての東ドイツの高層住宅を連想されることもある。故に、家賃は安くなる。
高層住宅群の中心には小規模ながらもショッピング・モールがあり、店舗は勿論、医院や幼稚園まで完備しており、さながらコロニーといった趣。大概のことは用が足りるので不便ではない。しかし、小型スーパーしかなく、他の店で売っているものもトルコ系の店以外は保守的で陳腐なものが多いので、高所得者から見れば買うものがない。
ドイツの高所得者層は避ける所だが、日本に有りそうで無い形態で、ドイツ的な合理性があって良い。


住環境に対する価値観は日本とドイツは全く異なるが、日本にもあるように地域によって住民の質が変わるのは興味深い。