ドイツ人とマヨルカ島(マリョルカ島)

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日本では猛暑が続いているが、こちらは連日の最高気温が25度以下と過ごしやすい。今年の4月は最高気温30度超が連続し、春と夏が逆転したような気候が続いており、ドイツには季節感が無いと改めて感じさせる。
それでも6月から8月は一番気候の良い時期で、Urlaub(休暇)真っ盛り。この時期、ドイツでは多くの人が一ヶ月前後の休みを取り欧州各国へ旅立つ。


では、何処へ行くのか?今回は「石を投げればドイツ人に当たる」と言っても良い位のドイツで一番有名な海外の島、マジョルカ(ドイツ読みでマヨルカ)を紹介したい。
ドイツ人が休暇を語るにあたって、やはりマジョルカは外せない。地中海に浮かぶスペイン領の南の島で、日本で例えるとグアム・サイパン・ハワイの様な赴きだが、彼らの反応を見ると熱海や沖縄と例えた方が違和感が無い。

マジョルカは、ドイツ以外で最もドイツ化された観光地としても有名。宿泊施設もドイツの観光産業が牛耳っており、殆どの観光従事者が英語よりもドイツ語を話せる。故に過当競争が激しくなり、ドイツ発マジョルカ着の旅行プランも顧客獲得に熾烈を極める。
旅行プランは時期によって異なるが三泊四日の場合では、・ドイツ各空港への往復DB電車代、往復飛行機代、朝昼晩バイキング食べ放題(Vollpension・Bueffet)、ワイン・ビール・ソフトドリンク飲み放題で一人200EURからが相場で、ドイツ人は平均二週間から一ヶ月位は滞在する(長期宿泊の方が、日割り単価は安くなる)。
日本の団体旅行も素晴らしいが、家を出て最寄りの往復電車チケットまで含めてのマジョルカ向け格安プランは、日本以上の配慮がある。自宅から自宅までのチケットは切り取り式で束になっており、一枚一枚切り渡しながら先へ進む。マジョルカ向けは特に至れり尽くせりなので、この束も他地域よりも厚くなる。


まず、マジョルカ空港に着いて驚くことは、ドイツ語の氾濫。耳に入る言葉は勿論、掲示板や雑誌、観光絵ハガキに至るまでスペイン語よりもドイツ語が目に入る。メルセデス・ベンツが空港内に飾られていたと思ったら、ドイツと同じ懸賞ハガキが置かれドイツ語だけで募集されていたりする。無論、空港関係者もドイツ語を話せ、諸外国でありがちな敬語の間違いも無い綺麗なドイツ語を話す。
ドイツ植民地の様な趣だが、ドイツ人も臆面もなくマジョルカはドイツのKolonie(植民地)だと話す。


先ほど、宿泊施設の多くがドイツ資本と伝えたが、中心都市のパルマ・デ・マジョルカだけではなく、あらゆる海岸都市部にドイツ人を対象としたホテルが乱立しており、空港の停車場はドイツ人観光客を対象とした送迎バスで満杯となる。
送迎バスは各ホテルまたは観光会社が共同で運営しており、同じ方面や同じホテルのドイツ人観光客を搭乗させ、各地域の各ホテルに降ろしていくが、場所によっては2時間近くバスに揺られながらホテルに向かう。無論、乗客はドイツ人ばかりで、係員もドイツ語対応。貸し切りバスが大挙してドイツ人を乗せて各地に旅立つ様は送迎というよりも、護送といった趣か。


ホテルに着くと、勿論ドイツ語を話す(場合によっては、しか話せない)受付が待ち構えており、身分証と引き換えにテープ式の腕輪を付けられ、この腕輪により何処のホテルの客かを判断し、出入り自由の三食食べ放題が出来る。
ちなみに、この腕輪はハサミでなければ切れず、チェックアウトの時に、ホテルの受付係に切ってもらう。ドイツ人が神妙な趣で受付に列を成し、受付係に腕輪を付けられる様子は軍隊さながらだ。


ホテルの食事はドイツ料理とスペイン料理。飲み物はドイツ人の好みを反映しており、飲み放題でもビールとコーヒーは最高に美味い。カクテルは数量制限有りの無料。それ以外の飲み物は、基本的に終日飲み放題が多い。財布を持つことなく、ホテルのプールサイドでの飲み放題は格別といえる。

ホテルのショーもドイツ語を話す司会が進行し、劇やマジックショーもドイツ語。間奏曲はドイツの流行歌ばかり。徹底していると思いきや唯一、フラメンコショーの時だけドイツ語ではない。当たり前か・・・。
勿論、テレビはドイツの番組が主で、ホテルロビーの大型テレビでは、ドイツのサッカー中継をドイツ語で宿泊客が観戦している。


多くのホテルは子供を無料で預かる場所もあり、ドイツ幼児番組の人気曲で、お兄さんお姉さんが子供と一緒に踊っている。


日頃、欧米人は 日本人は集団主義だと嘲笑するが、ドイツ人の集団主義も傍から見れば同じようなものか。
確かに、マジョルカにおけるドイツ人の集団主義は一見、滑稽だが、合理的でもある。マジョルカがドイツ人に人気なのは、ドイツと同じ言葉、同じ習慣を持ち込みながら、何も考えることなく、何の気兼ねもなく南国を体感できるところか。
海外旅行が苦手なドイツ人でも、手間は観光会社に予約する事くらい。


スペインの多くの町は南欧のカオス的な装いをかもし出しているが、ドイツ人が多く滞在するマジョルカの海岸部は秩序が保たれている。


しかしながら、安全で快適ではあるが、ここは作られた空間ではないだろうか?
マジョルカは、ドイツ人が理想とする究極の南国を具現化したバーチャルリアリティー空間といえるのかもしれない。